【古典・古文】平家物語「木曽の最後」現代語訳・品詞分解 その11
平家物語「木曽の最後」の品詞分解、現代語訳の第十一回です。
【本文】
「君はあの松原へ入らせ給へ。兼平はこの敵防ぎ候はん。」と申しければ、木曽殿のたまひけるは、「義仲、都にていかにもなるべかりつるが、これまで逃れ来るは、なんぢと一所で死なんと思ふためなり。所々で討たれんよりも、ひと所でこそ討ち死にをもせめ。」とて、馬の鼻を並べて駆けんとし給へば、今井四郎、馬より飛び降り、主の馬の口に取りついて申しけるは、「弓矢取りは、年ごろ日ごろいかなる高名候へども、最後の時不覚しつれば、長き疵にて候ふなり。御身は疲れさせ給ひて候ふ。続く勢は候はず。敵に押し隔てられ、いふかいなき人の郎等に組み落とされさせ給ひて、討たれさせ給ひなば、『さばかり日本国に聞こえさせ給ひつる木曽殿をば、それがしが郎等の討ち奉つたる。』なんど申さんことこそ口惜しう候へ。ただ、あの松原へ入らせ給へ。」と申しければ、木曽、「さらば。」とて、粟津の松原へぞ駆け給ふ。
【品詞分解】
( 「君はあの松原へ~討ち死にをもせめ。」とて)
君 → (名詞)貴人に対する敬称
は → 係助詞
あの → 代名詞「あ」+格助詞「の」
松原 → 名詞
へ → 格助詞
入ら → ラ行 四段活用 未然形
せ → 尊敬 す 連用形
給へ → (ハ行 四段活用 命令形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
兼平 → 名詞
は → 係助詞
この → 代名詞「こ」+格助詞「の」
敵 → 名詞
防ぎ → ガ行 四段活用 連用形
候は → (ハ行 四段活用 未然形 丁寧語)です、ます、ございます
ん → 意志 む 終止形
と → 格助詞
申し → (サ行 四段活用 連用形 謙譲語)申し上げる
けれ → 過去 けり 已然形
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
木曽殿 → 名詞
のたまひ → (ハ行 四段活用 連用形 尊敬語)おっしゃる
ける → 過去 けり 連体形
は → 係助詞
義仲 → 名詞
都 → 名詞
にて → (格助詞)~で
いかにもなる → (副詞「いかに」+係助詞「も」+ラ行 四段活用 終止形「なる」)死ぬ
べかり → 意志 べし 連用形
つる → (完了 つ 連体形)~てしまう、~てしまった、~た
が → (接続助詞 逆接確定条件)~のに、~けれども、~のだが
これ → 代名詞
まで → 副助詞
逃れ → ラ行 下二段活用 連用形
来る → カ行変格活用 連体形
は → 係助詞
なんぢ → 名詞
と → 格助詞
一所 → 名詞
で → 格所y氏
死な → ナ行変格活用 未然形
ん → 意志 む 終止形
と → 格助詞
思ふ → ハ行 四段活用 連体形
ため → 名詞
なり → (断定 なり 終止形)~である
所々 → (名詞)多くの所、あちらこちら、別々の場所
で → 格助詞
討た → タ行 四段活用 未然形
れ → 受身 る 未然形
ん → (婉曲 む 連体形)~ような
より → 格助詞
も → 係助詞
ひと所 → 名詞
で → 格助詞
こそ → 係助詞
討ち死に → 名詞
を → 格助詞
も → 係助詞
せ → サ行四段活用 未然形
め → 意志 む 已然形
とて → (格助詞)~と言って、~と思って
(馬の鼻を並べて~続く勢は候はず。)
馬 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
鼻 → 名詞
を → 格助詞
並べ → バ行 下二段活用 連用形
て → (接続助詞)~て
駆け → カ行 下二段活用 未然形
ん → 意志 む 終止形
と → 格助詞
し → サ行変格活用 連用形
給へ → (ハ行 四段活用 已然形 補助動詞)お~になる、~なさる
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
今井四郎 → 名詞
馬 → 名詞
より → (格助詞)~から
飛び降り → ラ行 上二段活用 連用形
主 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
馬 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
口 →
に → (格助詞)~に
取りつい → (カ行 四段活用 連用形 イ音便)すがりつく
て → (接続助詞)~て
申し → (サ行 四段活用 連用形 謙譲語)~申し上げる
ける → 過去 けり 連体形
は → 係助詞
弓矢取り → (名詞)弓矢を取って用いること、一国を領有するほどの武士
は → 係助詞
年ごろ → (名詞)長年
日ごろ → 名詞
いかなる → 副詞
高名 → (名詞)戦場で手柄を立てること、武功
候へ → (ハ行 四段活用 已然形 丁寧語)あります、おります、ございます
ども → (接続助詞)~けれども
最後 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
時 → 名詞
不覚 → (名詞)油断して失敗すること
し → サ行変格活用 連用形
つれ → (完了 つ 已然形)~てしまう、~てしまった、~た
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
長き → 形容詞 ク活用 連体形
疵(きず) → (名詞)恥、不名誉
にて → (格助詞)~で
候ふ → (ハ行 四段活用 連体形 丁寧語)です、ます、ございます
なり → (断定 なり 終止形)~である
御身 → 名詞
は → 係助詞
疲れ → ラ行 下二段活用 未然形
させ → 尊敬 さす 連用形
給ひ → (ハ行 四段活用 連用形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
て → (接続助詞)~て
候ふ → (ハ行 四段活用 終止形 丁寧語)です、ます、ございます
続く → カ行 四段活用 連体形
勢 → 名詞
は → 係助詞
候は → (ハ行 四段活用 未然形 丁寧語)あります、おります、ございます
ず → 打消 ず 終止形
(敵に押し隔て~駆けたまふ。)
敵 → 名詞
に (格助詞)~に
押し → (接頭語)無理に~する、ずんずん~する
隔て → タ行 下二段活用 未然形
られ → 受身 らる 連用形
いふかいなき → (形容詞 ク活用 連体形)言っても仕方がない、つまらない、たわいない、みっともない
人 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
郎等(らうどう) → 従者、家来
に → (格助詞)~に
組み落とさ → サ行 四段活用 未然形
れ → 受身 る 未然形
させ → 尊敬 さす 連用形
給ひ → (ハ行 四段活用 連用形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
て → (接続助詞)~て
討た → タ行 四段活用 未然形
れ → 受身 る 未然形
させ → 尊敬 さす 連用形
給ひ → (ハ行 四段活用 連用形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
な → (完了 ぬ 未然形)~てしまう、~てしまった、~た
ば → (接続助詞 順接仮定条件)~ならば
さばかり → (副詞)それほど、その程度、あのくらい
日本国 → 名詞
に → (格助詞)~に
聞こえ → (ヤ行 下二段活用 未然形)世間で評判になる、世に知られる、噂される
させ → 尊敬 さす 連用形
給ひ → (ハ行 四段活用 連用形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
つる → (完了 つ 連体形)~てしまう、~てしまった、~た
木曽殿 → 名詞
を → 格助詞
ば → (係助詞「は」が濁音化したもの)「をば」で「~を」
それがし → (代名詞)名も知らない人物、だれそれ、だれだれ
が → (格助詞 連体格)~の
郎等 → (名詞)従者、家来
の → (格助詞 主格)~が
討ち → タ行 四段活用 連用形
奉つ → (ラ行 四段活用 連用形 謙譲語 補助動詞 促音便)お~申し上げる
たる → (完了 たり 連体形)
なんど → (副助詞)~など
申さ → (サ行 四段活用 未然形 謙譲語)申し上げる
ん → (婉曲 む 連体形)~ような
こと → 名詞
こそ → 係助詞
口惜しう → (形容詞 シク活用 連用形 ウ音便)くやしい、残念だ
候へ → (ハ行 四段活用 已然形 丁寧語)あります、おります、ございます
ただ → 副詞
あの → 代名詞「あ」+格助詞「の」
松原 → 名詞
へ → 格助詞
入ら → ラ行 上二段活用 未然形
せ → 尊敬 す 連用形
給へ → (ハ行 四段活用 命令形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
と → 格助詞
申し → (サ行 四段活用 連用形 謙譲語)もうしあげる
けれ → 過去 けり 已然形
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
木曽 → 名詞
さらば → (接続詞)それならば、それでは
とて → (格助詞)~と言って、~と思って
粟津 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
松原 → 名詞
へ → 格助詞
ぞ → 係助詞
駆け → カ行 下二段活用 連用形
給ふ → (ハ行 四段活用 連体形 尊敬語 補助動詞)お~になる、~なさる
【現代語訳】
「あなたはあの松原へお入りください。わたくし兼平はこの敵を防ぎましょう。」と申し上げたところ、木曽殿がおっしゃることには、「わたしは(義仲は)、都で死ぬつもりだったが、ここまで逃げてきたのは、お前と同じところで死のうと思うためである。別の場所で敵に討たれるよりも、同じところで討ち死にをしよう。」と言って、馬の鼻を並べて馬を走らせようとしなさるので、今井四郎は、馬から飛び降り、主君の馬にすがりついて申し上げることには、「武士は、常日頃どのような武功がございましても、最後の時に失敗してしまうと、後世までの不名誉でございます。お体はお疲れになってございます。後に続く軍勢はございません。敵に無理に分断され、つまらない人の家来に組み落とされなさって、お討たれになってしまうならば、『あれほど日本国中に名が知られなさった木曽殿を、誰それの家来が討ち取り申し上げた。』など申し上げるようなことは残念でございます。ただ、あの松原へお入りください。」と申し上げたので、木曽は、「それならば。」と言って、粟津の松原へ馬を走らせなさる。
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