しっかりと丁寧に品詞分解して、古典に慣れていきましょう!
【本文】
その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食いけり。
その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
それを見て、ある人の言はく、「かきつばたといふ五文字を句の上にすゑて、旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める、
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
【品詞分解】
(第一文)
その → 代名詞「そ」+格助詞「の」
沢 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
ほとり → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
木 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
陰 → 名詞
に → (格助詞)~に
下り → ラ行 上二段活用 連用形
ゐ → ワ行 上一段活用 連用形
て → (接続助詞)~て
乾飯(かれいひ) → (名詞)携帯保存食
食ひ → ハ行 四段活用 連用形
けり → 過去 けり 終止形
(第二文)
その → 代名詞「そ」+格助詞「の」
沢 → 名詞
に → (格助詞)~に
かきつばた → (名詞)アヤメ科の植物
いと → (副詞)とても
おもしろく → 形容詞 ク活用 連用形
咲き → カ行 四段活用 連用形
たり → (存続 たり 終止形)~ている
(第三文)
それ → 代名詞
を → (格助詞)~を
見 → マ行 上一段活用 連用形
て → (接続助詞)~て
ある → ラ行変格活用 連体形
人 → 名詞
の → (格助詞 主格)~が
言はく → (ハ行 四段活用 未然形 + 接尾語)言うことには
かきつばた → 名詞
と → (格助詞)~と
いふ → ハ行 四段活用 連体形
五文字 → 名詞
を → (格助詞)~を
句 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
上 → 名詞
に → (格助詞)~に
すゑ → (ワ行 下二段活用 連用形)置く、設置する、妻として迎える、など
て → (接続助詞)~て
旅 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
心 → 名詞
詠め → マ行 四段活用 命令形
と → (格助詞)~と
言ひ → ハ行 四段活用 連用形
けれ → 過去 けり 已然形
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
詠め → マ行 四段活用 已然形
る → (完了 り 連体形)~てしまう、~てしまった、~た 注
(和歌)
唐衣 → 名詞
き → カ行 上一段活用 連用形
つつ → (接続助詞)~し続けて、~ながら、動作の反復を表す、など
なれ → ラ行 下二段活用 連用形
に → (完了 ぬ 連用形)~てしまう、~てしまった、~た
し → 過去 き 連体形
つま → 名詞
し → 副助詞
あれ → ラ行変格活用 已然形
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
はるばる → 副詞
き → カ行変格活用 連用形
ぬる → (完了 ぬ 連体形)~てしまう、~てしまった、~た
旅 → 名詞
を → (格助詞)~を
し → 副助詞
ぞ → 係助詞
思ふ → ハ行 四段活用 連体形 注
(第三文「と詠めり~」)
と → (格助詞)~と
詠め → マ行 四段活用 已然形
り → (完了 り 連用形)~てしまう、~てしまった、~た
けれ → 過去 けり 已然形
ば → (接続助詞 順接確定条件)~ので、~ところ、~と
みな人 → 名詞
乾飯 → 名詞
の → (格助詞 連体格)~の
上 → 名詞
に → (格助詞)~に
涙 → 名詞
落とし → サ行 四段活用 連用形
て → (接続助詞)~て
ほとび → (バ行 上二段活用 連用形)水分を含んでふやける
に → (完了 ぬ 連用形)~てしまう、~てしまった、~た
けり → 過去 けり 終止形
【現代語訳】
(第一文)
その沢のほとりの木の陰に下りて座って、乾飯を食べた。
(第二文)
その沢にかきつばたがとても美しく咲いていた。
(第三文)
それを見て、ある人が言うことには、「かきつばたという五文字を句の最初に置いて、旅の心を詠め。」と言ったので、詠んだ歌、
(和歌)
着続けて慣れてしまった唐衣のように、慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばる来た旅をしみじみと思うことだよ
(第三文「と詠めり~」)
と詠んだので、そこにいた人みんなが、乾飯の上に涙を落して、乾飯がふやけてしまった。
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